あべこべのくに

いまはむかし あるところに
あべこべの くにがあったんだ
はれたひは どしゃぶりで
あめのひは からりとはれていた

そらには きのねっこ
つちのなかに ほし
とおくは とってもちかくって
ちかくが とってもとおかった

うつくしいものが みにくい
みにくいものが うつくしい
わらうときには おこるんだ
おこるときには わらうんだ

みるときには めをつぶる
めをあけても なにもみえない
あたまは じめんにくっつけて
あしで かんがえなくちゃいけない

きのない もりでは
はねをなくした てんしを
てんしをなくした
はねが さがしていた

はなが さけんでいた
ひとは だまっていた
ことばに いみがなかった
いみには ことばがなかった

つよいのは もろい
もろいのが つよい
ただしいは まちがっていて
まちがいが ただしかった

うそが ほんとのことで
ほんとのことが うそだった

あべこべの くにがあったんだ
いまはむかし あるところに

「ねむりのもりのはなし」

長田弘


ときどき、あべこべ、を想像してみたい。
かたっぱしからなんでもかんでも逆さまにして!
すると言葉あそびのはずが、とつぜん事態がリアルになって、常識のあっけなさを感じます。
私が知りたいのは真理だけ、そう思う毎日。